マコトヤ菜園【野菜/高島市】
今回紹介するのは、滋賀県高島市で固定種をメインとしたお野菜を育てる『マコトヤ菜園』さん。農園主の西田誠さんは、出身地である大阪から単身で Iターンし、農業をされている。
震災がきっかけ
農業を志したのは、2011年3月11日。東日本大震災が起きたことが転機となった。交通網が遮断され、物資が行き届かない状況で、いつも当り前にあるはずの食べ物が手に入らない恐怖を多くの人が体感したあの日。それだけでなく、さらに問題となったのが、福島第一原発事故による放射能汚染。もちろん今もまだ苦しんでいる地域がある。
「食べることは生きること。」
生きるということの一丁目一番地が”食”であるということや、「安心・安全の食とはなにか。」あらためて考え直す人が確実に増えた出来事だった。あれから8年以上の歳月が経過したが、年々薄れていく被災地への記憶とは裏腹に、汚染された水や土壌には消えない跡が薄れず残っている。
まずは自分が
「どこの誰がどんな風に育てているかわからないものではなくて、自分で育てて胸を張って安心安全と言えるものを周りの人に届けたい。」
もともと学生が集う食堂の販売員などをしていた経験から接点があった”食”。そこへの関心が震災をきっかけに具体的なものに変わったという西田さん。農業をやりたくてもなかなかできない人のためにも、出身である関西でまずは自分が就農しようと意思を固めた。
良い循環を生むために
意思を固めてから約1年間の準備期間を経て、和歌山の農業生産法人で2年間の研修を積むことに。自然循環にそぐわないものは使用せず、その地のものでなるべく循環させるというスタイルはその時に学んだことが礎になっている。マコトヤ菜園さんの畑では農薬を使わず、動物性の糞尿も一切入れていない。代わりに、酒蔵から出た余り物の酒粕や、ぬかを発酵させたぼかし(ぬか麹と呼ばれていた。)を土にまいている。
実際に発酵したものを見せてもらうと表面には麹菌がびっしり。色は茶色く変化し、まるで醤油のような旨味のある匂いが漂っていた。
豊富な水はたくさんの米を実らせる。米づくりが盛んな地域ではお酒造りも盛んだ。日本最大の湖・琵琶湖を有する滋賀県もそんな地域の一つ。しかしその一方で、お酒を造る際に出る大量の酒粕。実は悩みのタネにもなっている。あまりの多さに産業廃棄物として扱われるほどなのだとか。そんな厄介ものが肥料という宝に変身するのだ。
地域に根付く
出身の関西に身を置きたいということと、移住定住のバックアップが手厚かった滋賀県高島市に縁があり、この場所で農業を始めた西田さん。当初は、イヌタデという雑草ばかりが生えていたが、野菜を植え土を改良していくうちに生えている雑草の種類も変化していったそう。(イヌタデを刈るとツーンとした嫌なニオイがしていたらしい)
育てる野菜は固有種が中心となるが、その中でもうまく根付くものと、土地に合わずうまく成長しないものがあるという。いかに野菜を病気にさせず、長生きさせるかを考えて、実験的にいろんな品種を試しつつ、この場所でよく育つもの・地域に根付くものを育てている。
シシリアンルージュやチャドウィックチェリー(ミニトマト)、ゼブラナス(ナス)やカーボロネロ(別名・黒キャベツ)など普段スーパーでは目にしない変わった品種がぞろぞろあった。
地域に住む人の高齢化によって使われなくなった土地を活用したり、もともとアユの養殖をしていた水槽を利用してクレソンを水耕栽培したり。(高島の綺麗な湧き水があるからこそ)
植えられている野菜同様、西田さん自身も地域に深く根付いて活動をされている。
受け入れること
飲食店の方からさまざまな野菜の作付けを頼まれたり、ファーマーズマーケットで農業を体験したいという人に農園への訪問をお願いされたり。
来る者拒まず。硬すぎず、砕けすぎず。常に自然体で、気さくなお人柄。今回の訪問でそんなふうに感じた。
新たに少し離れた高島市鵜川で借りられた畑は、小さな田んぼ15枚ほどの段々畑。そこでは、「少し畑をやりたい」「自分たちが食べる分だけでも」という人とシェアしていきたい。と今後の展望も聞かせてもらった。また新たな受け入れを。
ファーマーズマーケットだからこそ
飲食店以外に多くの農家さんが卸す場所が道の駅。だが、どうしても人と被っていないもの、人より安いもの、人より時期が早いものばかり選ばれてしまう。しかもどれだけ売れるかわからず、販路として不安定なうえに誰に届いているかもわからない。そんな現状を聞いた。
だからこそファーマーズマーケットでは、想いであったり、野菜のことであったり、そういったことを聞いて、感じ取れる機会になればいい。そして味わってみてほしい、そんなことを思った今回の訪問。
夏の終わり、秋の始まり。フルーツほおづきがとびきり甘くて美味しかった。
こんな風景が毎週末ひろがることを願って。
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